空想写実主義

 急いでいた。 あの間もなく発車する列車に乗らなければ、予定の飛行機には間に合わない。 改札は混んでいる。 乗客は我先にと改札へ押し寄せる。
 「あ」
手を人波に飲まれ、切符を落としてしまった。 しゃがんで探す空間的余地はない。 あきらめは早い方だ。 立ったまま人波が過ぎるのを待った。 間に合わないとわかってはいるが、次発の時刻を電光掲示板で確認する。
 臨時列車─── すぐに発車する臨時便があるらしい。 ありがたい。 切符を購入し改札をくぐり、列車に乗り込んだ。 車両内の空気は明らかに張り詰めていた。 荷物を両腕でしっかり抱え込んでいる人、怯えた表情で支持棒にしがみついている人。 臨時列車がアナウンスも無しに発車した時、理由を察した。 最初に感じたのは、何かに衝突したかのような強い衝撃だった。 その後も何度となく衝撃が加わり、そのたびに車両は振り子のように大きく揺れた。 何事かと思い、揺れのおさまった時に外をのぞいてみた。 列車は空を走っていた。 空中に浮かぶ架台のない線路。 眼下には夕日色に染まった海。 揺れに対する疑問は消し飛んだ。
 しばらくすると、前方の線路が大きく左にカーブしているのが見えた。 高速で曲がるためか、線路には大きく傾斜がついている。 カーブにさしかかったとき、列車は速度を落とした。 直感的に思った。 速度が足りない。
 「落ちる」
列車は線路よりも更に大きく左へ傾き、右の車輪が線路から離れた。
 
 砂浜に一人で倒れていた。 海に落ちた時の記憶はない。 生きていることに何の疑問も感じなかった。 初めに見たのは彩り鮮やかな景色だった。 緑は少なく、黄と赤が目に付いた。 良い気分ではなかった。 しばらく見ていると、ぼやけていてよく分からないが、景色が動いたような気がした。 ふと足元を見ると、手のひらほどの虫がいた。 金色のゴキブリだった。 別段驚きもせず再び景色を見る。 今度は独立して動く一つ一つの物体がはっきりと見えた。 全て、虫だった。 どこを向いても見渡す限り、虫。 それぞれの触覚、足、繊毛鞭毛などを一本一本数えた。 植物は無かった。 あるのは海と砂、そして虫だった。 これからはこの虫を生で食っていくのか、と他人事のように思った。
 
 
という夢を見た。 列車の衝撃の疑問は解けていない。 線路が空中に浮く技術的根拠も、漂着した地の生態系も、その後の食生活も全て不明。 嫌な夢だった。
 今までに何度も再放送された「嫌な夢シリーズ」はどれも身近な土地が舞台だった。 ここ数年ほど目にすることがなかったが、今日発表されたシリーズ最新作は、舞台を一新し、SFXありファンタジーありと、新要素盛りだくさんで飽きさせない仕上がりとなっている。 これからも「嫌な夢シリーズ」から逃げられない!! 勘弁してくれ